ブランディングの効果とメリット
2021/06/20(日)
「ブランディング」「ブランド」「ブランド化」という言葉は、現在では非常にありふれたものとなりました。
どの企業も(ときには個人であっても)、この言葉に接し、またこの言葉に基づいた行動をすることで、自社の商品やサービス、自己の価値を高めていこうとしています。
情報社会となったこともあり、「どのように人に伝え、どのように自社商品や自社サービスを人に受け入れてもらえるか」を考えることは、もはや避けては通れないことだといえます。
そして、正しく効率的なブランディング(あるいはブランド化)をしていくためには、「ブランド」という言葉そのものに対しての深い理解がなければなりません。
今回はそのなかでも、「ブランド・エクイティ」「ブランド・エクイティ・ピラミッド」という単語を取り上げて行こうと思います。
目次
まず、「ブランド・エクイティの要素」「ブランド・エクイティ・ピラミッド」の解説をする前に、「そもそもブランド・エクイティとは何か」について解説していきます。
「ブランド・エクイティ」は、“Brand Equity”と書きます(以降はカタカナ表記で統一)。
「エクイティ」とは、簡単にいえば、「株式資本」のことです。
不動産用語などとしても使われるものであり、金融関係の業界では広く使われています。
なお、この「エクイティ」の場合は、返済期限が特に定められていないものであるため、「その投資によって利益が生み出されるように」ということで、投資家がしっかりと会社を監視していく必要のある資本でもあります。
この「エクイティ」の意味を踏まえることで、「ブランド・エクイティ」のことも分かりやすくなります。
ブランド・エクイティとは、直訳をするのであれば、「ブランドの株式資本」となります。
ただ、ブランドは目に見えるものではありませんから、実際には「ブランドの資本」と解釈されます(このため、「ブランド・エクイティ」という単語と「ブランド資本」という単語はほぼ同一の意味で使われます)。
ブランド・エクイティの考え方を出したのは、D.A.アーカー教授(デイヴィット・アーカー氏とも)です。
アメリカ合衆国に居住する経営学者であり、マーケティング理論の大家でもあります。
スタンフォード大学で経営学の博士号などを得た教授は、ブランド・アイデンティティの祖としても知られています。
彼は、1991年に「ブランド・エクイティ戦略―Managing Brand Equity」を記しました。これは、今までかたちのなかった「ブランド」というものを、証券や土地、あるいは店舗のような「資産」としてとらえようとする画期的な理論でした。
ここで、ブランド・エクイティは、
“「ブランドの名前やシンボルと結びついた資産(および負債)の集合体」と位置付けられました。”
―引用:田中洋「ブランド戦略論」P15、D.A.アーカー「ブランド・エクイティ戦略」邦訳P9)
これはいくつかの批判をはらむものでしたが(後述します)、それでも、「ブランドを資産として、それを高めていく必要があるもの」と位置付けた意味は非常に大きく、数値化できない資産を重要視し、またはかるための基準として認識されるようになりました。
上記でも述べたように、ブランド・エクイティ論が業界に与えた影響は非常に大きいものでした。ブランド・エクイティ論が出される以前と、ブランド・エクイティ論が出された以降ではブランドに対する考え方が大きく変わりました。
このブランド・エクイティ論は、単純に「マーケティング戦略」にとどまらず、アカデミック(学術的な)分野からも注目を受けるものとなりました。
なぜならば、ブランド・エクイティ論の広がりによって、マーケティング戦略を考える人たちが「何に注目すればよいのか」「ブランドが持つ意味とは何か」がはっきりしたからです。
ここからは、ブランド・エクイティがもたらした影響について見ていきましょう。
「良い商品をつくれば、名前が知られていなくても人は手に取ってくれる」
「あくまでロゴや名前は補佐的なものであり、大切なのは商品である」
という考え方は、ある意味では真実ではあります。
ただ、そもそも商品を手に取ってもらうためにはその商品が消費者に知られていなければなりませんし、またその「知られ方」は(一部の特殊な例を除き)好意的なものでなければなりません。
このように、「知られること」「またそれが好意的なものであること」は、ブランド化を考えていくうえで非常に重要なものです。
ブランド・エクイティ論は、それを裏付ける説明として使われるようになりました。
ブランド・エクイティ論の登場によって、「ブランド」は「管理すべき財産」「戦略的に展開していくべき資本」とされるようになったのです。
この影響は非常に大きく、マーケティングの最高責任者がミーティングに参加する率さえも驚異的なほどに上げさせたとも言われています。
マーケティングを考える人間の行動様式さえも、大きく変えるスイッチとなったのがこの「ブランド・エクイティ」です。
ブランド・エクイティ論は、単純に「ブランド戦略の地位」「ブランド戦略の重要性」「マーケティングの最高責任者の行動形式」にだけ変化を与えたわけではありません。恐らく、ブランド・エクイティ論(やそこから導かれるブランド戦略)が机上の空論であり、なんら実用性を持たないものであったのならば、この概念がこれほどにまで広く受け入れられることはなかったことでしょう。
しかしブランド・エクイティの上昇が、その会社の株価にまで影響を与えるということが分かったのです。
ブランド・エクイティが及ぼす影響は非常に大きく、ROI(“Return on investment”の略称。出た利益が、どれほどの投資費用で得られたかを算出する基準。
非常に分かりやすい言い方としては「費用対効果」がある)のうちの70パーセントを占めるとまでいわれています。
ブランド・エクイティに注目して、それを高めていくことは、自社の利益に直結するのです。
出典:田中洋「ブランド戦略論」
ブランド化していくには、長い時間が必要です。
自社の会議室で「これがうちのロゴ・名前・イメージです!」と議論しまた打ち出したとしても、それが消費者に届いていなければ意味はありません。
ブランド化していく過程では長い時間が必要となりますし、それは時には遠回りに見えるものかもしれません。
ブランド・エクイティ論が構築されるより前、また「ブランド」という単語や価値がそれほど一般的ではなかった時代、あるいはブランドに対する理論がまだ系統立って組み立てられていなかった時期は、「短期的な売り上げを伸ばすこと」「自社の市場シェアを増やすこと」が命題とされていました。
目に見える・数字として挙がりやすいこれらの増加や拡大は、とても「分かりやすいもの」であったことも、注目されていた理由のひとつでしょう。
これはたしかに現在でも大切な視点なのですが、短期的に売り上げを伸ばして自社のシェアを増やしたとしても、それがすぐに終わってしまう(縮小してしまう)ようなものであれば、長期的な利益獲得は極めて難しくなります。
しかしブランド・エクイティ論では「ブランドは資産である」と考え、それによって長期的な利益が見込めると説きました。
短期的な売り上げを伸ばすことももちろん大切なことではありますが、多少遠回りに見えても、好意的に見られるブランドを作り上げていくことが自社にとっての利益になるとしたのです。
現在はブランド戦略にかけられる費用にも注目が集まっています。
マーケティング予算の報告のなかでも、ブランド・エクイティにかける費用の割合などが数字として出されることが多くなっています。
「ブランド・エクイティ論」の登場は、ブランド、そしてひいては自社の良いイメージを育てていくための手がかりとなりました。
多くの人がブランド・エクイティに注目し、そしてその要素を考えるに至ったのは、このような理由があるからです。
さて、ブランド・エクイティの価値と意味、そしてブランド・エクイティ論がもたらした変化を紹介してきましたが、ここからはもう少し踏み込んで「ブランド・エクイティの中身」について解説していきます。
「ブランド・エクイティはどのような要素で構成されるか」「ブランド・エクイティ・ピラミッドとは何か」についてです。
ブランド・エクイティを提唱したD.A.アーカー教授が有名ですが、ケビン・レーン・ケラー教授も有名です。
彼はイギリスのダートマス大学に拠点を置く教授であり、D.A.アーカー教授と同じく、ブランド論の大家として知られています。
この2人の理論について見ていきましょう。
まず取り上げるのは、D.A.アーカー教授の「ブランド・エクイティ5要素」です。
D.A.アーカー教授は、ブランド・エクイティの5要素として、以下の5つを挙げました。
- ブランド認知
- 知覚品質
- ブランドロイヤリティ
- ブランド連想
- その他のブランド資産
なお、5に関しては少し特性が異なります。
一つずつ見ていきましょう。
ブランド認知とは、ごく単純にいえば、「その商品やサービスが、どれくらい人に認知・認識されているか」ということを表す単語です。
ブランド認知は、“Brand Visibility”と書かれます。
言語的な話であるため詳しくは割愛しますが、かつて同じ日本語として“Brand Awareness”が「ブランド認知」とされていましたが、この2つは意味は異なります。
現在使われている“Brand Visibility”の方は、「その商品やサービスの単純な認知度」だけではなく、「その商品やサービスが正しく解釈されているか」「消費者からみて、消費者本人と関わりのあるものだと考えられているかどうか」をも問う言葉となっています。
たとえば、Aという有名なレストランの名前を見たとき、人は単純に「そのブランドを知っている」というだけではなく、「魚料理がおいしいお店」「クリスマスメニューがすばらしいところ」「ちょっと特別な日に行きたいお店」などのように考えるでしょう。
これが「ブランド認知」です。
ブランド認知が低ければ、「おいしい魚料理を食べたい」「趣向をこらしたクリスマス料理を食べたい」「誕生日なので特別なお店に行きたい」と考える人のなかに、Aというお店を選ぶという選択肢が出てきません。初めの選択肢に入らなければ、当然選ばれる確率も大きく下がります。もちろん、「偶然検索で行きついた。ここがよさそうだからここにしようと思う」という人もいないわけではありませんが、まれでしょう。
「選択肢に入る」という意味で、ブランド認知は非常に重要なものなのです。
「知覚品質」とは、「その商品やサービスの品質がどの程度のものであると消費者が認識しているか」を指す言葉です。
「Aという商品は品質が高く、Bという商品は品質が低いと消費者側が思っている」という感覚が知覚品質の具体例です。
当然この知覚認知が好意的なものであればあるほど自社の商品やサービスは売れやすくなります。
そのため、「知覚品質」は、単純に「消費者が知覚する、その商品やサービスの品質」という意味以外にも、「その商品やサービスが、どれほど好意的に受け入れられているか」とする意味を持ち合わせることもあります。
非常に重要なのは、この「知覚品質」は、必ずしも「実際の品質」とはイコールではないという点です。
たとえば、「Aは実際には100の品質であり、Bは実際には120の品質しか持っていない。
しかしBは以前、『品質は140である』と虚偽記載をしており、それを謝罪して訂正した」という場合、「Aの品質の方がBより優れている。Bは140ではないと言ったから、Aよりも品質が劣っている」と考える層も出てきます。
知覚品質において見られるのは、「実際の品質」ではなく、「その商品の品質を、『消費者側が』どのようにとらえているか」なのです。
もちろん商品やサービスの実際の品質をおろそかにすることは決してできませんが、たとえ実際の品質が良かったとしても、知覚品質が低ければその商品やサービスはなかなか手に取ってもらえません。
「品質が良い」と考えられている商品やサービスは、そうではないものに比べて、ROIが2倍知覚にも上っているという研究データもあります。
出典:Mission Driven Brand「ブランドエクイティの意味とは|ブランドエクイティの構成要素と成功事例」
「ブランドロイヤリティ」は、とても重要なものであると位置づけられています。
これは、簡単に言うと、「消費者が、その商品に対して持っている愛情であったり執着であったりするもの」と解釈されます。
たとえば麦茶を買うとき、A・B・Cというブランドがあったとしましょう。
成分的にはほとんど違いがなく、味わいにも大きな変化はないのに、いつもAばかりを買ってしまう……という経験をした人は多いのではないでしょうか。
これは、「あなたにとってAという商品(あるいはAを打ち出している会社)のブランドロイヤリティが、BやCよりも高い」ことを示す行動です。
特定の商品やサービス、会社に対して好意的な視点を持ち、それを購入したいと考える値を、「ブランドロイヤリティ」といいます。
このブランドロイヤリティを高めていくことは、企業にとって非常に重要なことです。
ブランドロイヤリティが高ければ、特定商品だけでなく、同じ企業から打ち出される新しい商品に対しても好意的な視線が注がれやすいからです。
リピーターの獲得にもつながる重要な項目であるため、ブランド・エクイティのなかでも特別なものとされることが多いカテゴリーです。
ブランド連想とは、「一つの単語やブランドに接したときに、そこからどのような情報を連想するか」を指す言葉です。
私たちは日ごろ、たくさんの言葉に接します。
たとえば「スズキ」という言葉を聞いたとき、人によっては自分の知り合いの鈴木さんを思い浮かべるでしょうし、ほかの人は車のメーカーをまず思いつくでしょう。
釣りが好きな人ならば、魚の名前だと感じるかもしれません。
一つの単語やブランドに接したときに、自社の名前や自社製品を思いうべてもらえるのであれば、それだけ自社が知られていることになりますし、利益の獲得にも繋がりやすくなります。
繰り返しになりますが、人は、「知らない商品は、買うことができない」状態にあります。
「何かの言葉に接したときに、自社や自社製品を思い浮かべてもらえること」は、強力なアドバンテージとなり得ます。
ただ、その「連想」がネガティブなものであれば逆効果です。
たとえば、「おいしくないもの」「色が嫌いなもの」と聞いた人が、自社の商品やサービスが思い浮かべるようであれば、それはマイナス効果にしか繋がりません。
そのため、「ブランド連想」という言葉は、単純に、「一つの単語やブランドに接したときに、そこからどのような情報を連想するか」だけでなく、「一つの単語やブランドに接したときに、そこからどのような『ポジティブな』情報を連想するか」とも解釈されます。
「その他のブランド資産」とは、他の4つとは少し意味合いが異なるものです。
これは他の4つとは違い、「法律面での話」となります。
世界の多くの国で、著作権を代表とする知的所有権・知的財産権が制定されています。
当然日本も例外ではありません。また、商標権や特許権もあります。
この「その他のブランド資産」とはこれらのことを指します。
また、取引先との円満な関係をここに分類することもあります。
「対消費者」に対しての観点からではなく、法律面や、会社同士の関わり方を「資産」とするものであるのが特徴です。
さて、ここからは、ケビン・レーン・ケラーの「ブランド・エクイティ・ピラミッド」について取り上げていきましょう。
「ブランド・エクイティ」という単語は共通していますが、ブランド・エクイティ・ピラミッド」の場合、文字通りこれをピラミッド型にして論じているという特徴があります。
ブランド・エクイティ・ピラミッドは、以下の階層に分けられます。
番号が小さい方が土台部分になり、その上に番号の大きいものが積み重ねられていきます。
ただし、②と③、④と⑤は同じ階層に位置します。
出典:中嶋門多・木亦千尋『「食」を活かした地域ブランド構築モデルの検討』(2009)
「突出性」とされますが、これでは少し分かりにくいかと思われます。
解説をしていきましょう。
「セイリエンス」とは“Salience”と書きます。
日本語に訳するのが難しいこともあり「突出性」とされることが多いのですが、より分かりやすくいうのであれば、「重要な点」「要点」となります。
ブランド・エクイティにおいては、「ブランドを思い起こさせやすい特徴や要点」と解釈されます。
そもそもそのブランドを知っているか」「そのブランドがどれくらい知られているか」「どれくらいの頻度で思い浮かべられるか」などの意味も含みます。
ブランドは、知られていなければまず話になりません。
その意味では、セイリエンスはブランディングやブランド・エクイティを考えるうえでの基礎となりうるものだといえます。
「機能(効用)」のことです。ただこれは、「その商品やサービスがどの程度の機能を持っているか」だけに留まる話ではありません。
「その商品やサービスが、どれほど消費者のニーズを満たしているか」を測る基準なのです。
商品やサービスの機能がよくても、それが消費者のニーズと合致するものでなければ、購入やリピートには結び付きにくいでしょう。
またこれは、その商品の「スペック」だけで測れるものではありません。
ブランドに対する信用度や耐久性、それを手に入れるための方法が煩雑ではないか、そのブランドのデザインが気に入っているかどうかも問われます。
非常に面白いのは、「それを買うための接客サービスが、良いものであったかどうか」までが判断基準に入っているということです。
「物さえ良ければよい」「高品質であればほかの部分に欠点があっても構わない」とされる価値観が、特定の分野以外では今や時代遅れとなっていることは、この点からも分かります。
「イメージ」は、ブランド・エクイティ・ピラミッドのなかではもっとも理解しやすい分野でしょう。
そのブランドにどのようなイメージが抱かれているかを考えるものです。
たとえばバッグを取り上げてみましょう。
現場作業などに使われるバッグと、パーティー会場に持っていくバッグでは、それぞれのイメージがまったく異なります。
自社の打ち出すブランドイメージと消費者側の持つイメージが一致しているかどうかは、自社のブランドの方向性や受け止められ方を知るための手がかりとなるでしょう。
「理性的判断」と訳されます。これも比較的理解はたやすいものです。
「消費者が、その商品やサービスをどのように評価するか」を基準とするものです。
「パフォーマンス」を踏まえたうえで行われる判断であり、「このブランドをどれほど好きか」「あなたにとってこのブランドのメーカーは信頼がおけるものかどうか」などを問う項目です。
パフォーマンスから一歩進んだ概念であり、消費者個人とそのブランドがぐっと近い状況で行われるものです。
「感情的判断」のことです。
「イメージ」の場合は、「そのブランドに対してどのような印象を持つか」が主題となりますが、フィーリングの場合は「暖かみがあるか」「安心感があるか」「それを使っている自分の姿を好ましいと思うか」などを問います。
「商品やサービス、ブランドやメーカーに対する印象」にとどまらず、「自分(消費者個人)」どのように感じるかを基準とするものであることが、大きな特徴です。
ブランド・エクイティ・ピラミッドの一番上位に来るのが「レゾナンス」です。
「ブランド・レジナンス」と書かれることもあります。
「共鳴性」「ロイヤルティ」と解釈されることが多いもので、「自分(消費者)の価値基準と合う」「これを持っている人とは仲良くなれそうだ」などのように感じられるかどうかを見るものです。
今回紹介したなかで、③と⑤は主に感情面・感性面に働きかけるものです。
そして②と④は理性面に働きかけるものです。
また、②と③は少し遠い位置からブランドを評価しているのに対し、④と⑤は「消費者自身のこと」としてブランドをとらえようとしているという特徴があります。
「ブランドはまずは認知されることから始まり、それを身近なものとして感じてもらい購買につなげること」がマーケティングの基本となります。
ブランド・エクイティ・ピラミッドは、この流れを分かりやすく図式化したものといえるでしょう。
このように、ブランド・エクイティ論と、ブランド・エクイティ5要素およびブランド・エクイティ・ピラミッドは、自社や自社商品、自社サービスのブランド化において非常に重要な役目と意味を持つものです。
多くのマーケティングの専門家が、ブランド・エクイティ論に注目したのは当然のことだといえるでしょう。
しかし、ブランド・エクイティ論やブランド・エクイティ5要素、あるいはブランド・エクイティ・ピラミッドは、決して無批判に受け入れられたものではありません。
ブランド・エクイティ論に対する批判もまた出ています。
そのうちの一つが、「ブランド化にはそもそもそれほどの意味はないのではないか」というものです。
もしもブランド・エクイティ論が完全なものであるのならば、ブランド名が商品の価格に大きな影響を与えるはずです。
しかし1992年に家電用電化製品を対象として行われた調査では、「価格差の分散は、基本的には『品質』によって左右される。
そのため、ブランド名の強弱によっては、価格差は説明ができない」とされました。
この実験は1例だけに留まるものではなく、同種の調査でも同じ結果が出ました。
さらに、「そもそもブランド・エクイティは実際の市場においてはあまり影響を与えていないのではないか。
ブランドロイヤリティが高いか低いかで売れ行きが決まるのではなく、その会社の商品が市場においてどれだけのシェアを占めているのかで変わるに過ぎない」とした説も出てきました。
これも非常に分かりやすい調査がされています。
市場のシェアがB社の2倍程度であるA社は、1人あたりの年間購入数がB社の2倍程度でした。
加えて、A社のものを購入していた人のうちの12パーセントはA社のものだけを購入していたのに対して、B社のものだけを購入した人はわずか3パーセントにとどまっていたという調査結果が出ています。
このようなことから、ブランド・エクイティはすべてのケースに当てはまるものではなく、盲信することには危険があると考えることもできます。
出典:田中洋「ブランド戦略論」
ただ、ブランド・エクイティ論もブランド・エクイティ論に対して批判的な意見も、どちらかだけが正しいとはなかなか言えないものです。
ブランド・エクイティだけで市場が成り立ち、またブランド・エクイティだけで価値が決められるわけではありません。
もしそうであるならば、ブランド・エクイティが大きい企業や商品のみに注目が集まり、利益が出るからです。
ただ、「ブランド・エクイティはまったく無意味なものであるか」と言われれば、そうとも言いきれません。
現在シェアを多く獲得している企業や商品やサービスは、そもそもブランド・エクイティの力を利用したからこそシェアが多くなったという見方もできるからです。
これを合わせて考えると「ブランド・エクイティは無意味である」と断じることはできませんし、また同時に「ブランド・エクイティだけが全てである」とも言えません。
ブランド・エクイティ論は、批判のあるものであることは事実です。
ただ、ブランド・エクイティ=机上の空論であると結論付けられていない以上、ブランド・エクイティを考え、それを広げて行こうとする考え方と取り組みは、マーケティング戦略において重要なものだといえるでしょう。