中日ドラゴンズ英智と中小企業経営
2014/07/23(水)
目次
多くの経営本を読んでいると、
「考えるより行動する」
という言葉をよく見ることがあります。
ややもすれば「考えずに行動する」と受け取られてしまいがちな言葉ですが、決してそんなことはありません。何も考えずに行動したために何も成果を得られなかった、という人も多く見受けられます。
「考えるより行動する」はビジネスにおける格言として紹介されることが多くなりました。
その要因として、「経営者の父」「経営コンサルタントの創始者」とも呼ばれるP.F.ドラッカーのマネジメント論を挙げる人もいます。
もともと「マネジメント」の発明者としてビジネスの世界では崇拝されていたドラッカーは、2009年発行のコミック『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』により、一般的にも知られる存在となりました。
そのドラッカーの主張は「実行をマネジメントする」というものであり、それゆえに「考えるよりも行動=実行」という風潮が強まったのではないか、というのです。
ただし、ドラッカーは「何も考えずに実行する」と言っているわけではありません。「戦略を実行する」、つまり「考えてから行動に移す」うえでの戦略について著書に記しているのです。
では、企業経営における「戦略」とは何でしょうか? 今では書籍やインターネット上でも「経営戦略」に関する情報が溢れています。
企業の経営にとって「戦略」は非常に重要なものですが、これについても誤解されているところがあるように思います。
何でもかんでも単に戦略を立てて実行に移せばいい、というわけではありません。それでは「何も考えずに実行する」ことと同様、失敗という結果に至ることは目に見えています。
今回は「成功する戦略・失敗する戦略」と題し、企業経営のためにはどんな戦略の立て方が必要なのかを説明しましょう。
企業経営にとって「成功」とは利益を生み出すことであり、「失敗」とは損失をもたらしてしまうことです。
「成功する戦略」とは「利益を生み出すための戦略」、「失敗する戦略」とは「損失をもたらしてしまう戦略」だといえるでしょう。
まず「成功する戦略」を立てるためには、「どうすれば利益が生み出されるのか」について考える必要があります。
① 顧客を創造する
② マーケティングとイノベーション
③ 自社の強みを知り、新たな強みを生み出す
ドラッカーは自著『マネジメント』において、次のように述べています。
「企業の目的は一つしかない。それは、顧客を創造することである」
これはどういうことかというと、会社を経営しているかぎり、利益を生み出さなければ倒産してしまいます。しかし、利益“だけ”を追求していては、会社は長く続かないということです。
昔々は「生産→販売」というサイクルだけでモノが売れていました。それだけ世の中にモノがなく、また生産量も少なく、作れば売れるという時代があったのです。今と比べると、なかなか想像できない世界ですよね。
しかし現代は「飽食の時代」です。たいていは日常生活で食べ物に困ることもありません。同じように、モノに困ることもないでしょう。
そんな時代のなかでも、会社はモノを売り、利益を出していかなければいません。でも今は、ただ単に商品を作り、販売するだけでは「購入」にまで至ることが難しい時代に……。
そこでドラッカーは、「顧客を創造する」ことの重要性を説いているのです。
顧客を創造するには、次のような実行が必要となります。
① まだ誰にも知られていない(他社が気づいていない)“ニーズ”を探す
② その“ニーズ”を満たす方法(商品)を提供する
③ 新しい顧客(市場)が想像される
これが、新しいニーズのあるところに、新しい商品はあり、そこから新たな市場が拡大していくメカニズムです。
近年でいえば、iPhoneを発売したApple社は、新たな顧客を創造した最たる例でしょう。
iPhone登場以前は、少なくとも日本では「スマートフォン」の存在はほぼ誰も知りませんでした。
しかし2007年にアメリカでiPhoneが発売され、翌年には日本で孫正義社長率いるSoftbankが販売。ここから国内にiPhoneのみならずスマートフォン市場が形成されていったのです。
とはいえ、日本でも発売当初からiPhoneが爆発的に売れていたかといえば、そうではありません。特に20代以下の若い世代には、それほど普及していませんでした。
そこでSoftbankは、iPhoneを実質0円で購入できるキャンペーンを展開。結果、若い世代が続々とiPhoneを手にするようになったことで、日本国内のスマートフォン市場を作り上げるに成功しました。
iPhoneを生み出したApple社と、日本国内でiPhoneひいてはスマートフォン市場を作り上げたSoftbank。
この2社には、ひとつの共通点があります。それは「2番手に甘んじていた」という点です。
まずApple社は、設立者の1人であった故スティーブ・ジョブス氏が、パーソナル・コンピュータ「Apple」を開発。さらに「Macintosh」を生み出し、パソコン市場を開拓しました。
ところがビル・ゲイツ率いるMicrosoft社が1995年、「Windows 95」を発表すると、PC市場ではマイクロソフト社がアップル社を追い抜き、世界1位の企業に。
以降アップル社はマイクロソフト社の後塵を拝し続けていたのです。
一方Softbankは、もともと1991年にスタートした「東京デジタルホン」が1997年に兄弟電話サービス「J-PHONE」を設立。その後「ボーダフォン」を経て、2006年にソフトバンクとなりました。
しかしながら日本の通信産業といえばNTT(旧・日本電信電話公社)。携帯電話部門ではその子会社であるNTTドコモがトップで、それにソフトバンクとau(KDDI)が続く形でした。
ところがiPhoneの販売とWi-Fi回線の整備……スマートフォン市場の開拓で業績を大きく伸ばしたのです。
今では当たり前となったスマートフォンですが、もともとは「こんな物があったらいいな」と、人々が想像するに過ぎなかったものが、現実的に商品化された形です。
故ジョブス氏と孫社長は、そんな人々の“ニーズ”を見逃さなかったということでしょう。
失敗する戦略=同じ市場で生産→販売を繰り返す
成功する戦略=新しいニーズを探し、顧客を創造する
次に、どうすれば新しいニーズを探し、顧客を創造できるのでしょうか。
再びドラッカーの著書から引用します。
「企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。
それがマーケティングとイノベーションである」
マーケティングとは「顧客のニーズに合った商品やサービスを提供し、顧客が満足を得る」ための企業活動を指します。
また、イノベーションとは「新しいアイデアから新しい価値を創造し、大きな価値を生むための変革」であると言われています。
実は、このマーケティングとイノベーションに対する考え方によって、「成功する戦略」「失敗する戦略」の差が生じてきます。
失敗するマーケティング=いま売れているものを生産することだけを考える
成功するマーケティング=人々のニーズを探り、ニーズに合わせた商品を提供する失敗するイノベーション=新しい発明・技術ばかりを追い求める
成功するイノベーション=人々が求める・社会のためになる価値を創造する
企業を経営していくうえでは、市場のデータ収集と分析は欠かせないものです。
ところが、ここで「何が売れているか」だけを知ろうとすると、「失敗する戦略」に陥ってしまいます。
それは先に述べた「同じ市場で生産→販売を繰り返す」ことに繋がってしまうからです。
また、「自分が何を作りたいか」という発想からスタートすることも、「失敗する戦略」のひとつ。
その結果、「自分が作りたいもの」を買ってくれる市場(顧客)を探すことになり、それでは新しい市場の創造には至りませんし、生産性も高まることはないでしょう。
新しい発明・技術ばかりを追い求める「失敗するイノベーション」は、そんな「自分が作りたいものを生産し、販売する」といった考え方から生まれるものでもあります。
iPhone・スマートフォン市場でいえば、ずっと同じ携帯電話(ガラケー)を生産・販売し続けていては、あるいはガラケーに関する新しい技術ばかりを追い求めていては、新しい顧客(市場)を開拓することはできなかったでしょう。
さらにiPadの普及から、タブレットという新しい市場が生み出され、2016年にはノートパソコンの出荷台数を上回りました。ITの世界は、今もなおマーケティング・イノベーションが続いています。
そもそも「戦略」とは、あるひとつの目標を達成するための計画や方向性を指します。
この計画や方向性を作り上げるためには、まず①目標を設定すること、そして②自分の武器を知ること、が必要となってきます。
特に自分の武器が分かっていなければ、目標を設定することもできないかもしれません。現状からかけ離れた目標を立てても、それは何の意味も成さないからです。
では、自分の武器を知ることとは何か? それは自分(自社)の強みを知ることです。
ドラッカーは言います。
「人が成果を挙げるのは弱みではなく強みによってである」
ここで再びアップル社、ジョブス氏の話を例として挙げましょう。
ジョブス氏はMac発表後の1985年5月、アップル社の経営難に伴って、Mac部門からはずされたこともあり、同年9月にアップル社を離れました。しかし1997年には復帰します。
ただ、その時点でPC市場はマイクロソフトの「ウィンドウズ」がトップを走っていました。特にウィンドウズは個人だけでなく企業からも支持を得て、売上を伸ばしていたのです。
すると復帰したジョブス氏は、マイクロソフトが強い法人市場ではなく、個人市場に的を絞ります。それはMacの強みのひとつが、機能性はもちろんのこと、美しいデザイン性でもあったからです。
ジョブス氏は1998年に、斬新なデザインのiMacを発表。さらに、持ち運べるiMac=iBookによって大成功を収めたのでした。
もちろん、自分自身を見つめ直す際には、強みだけでなく弱みを知り、その弱みを補正していくことも必要です。
ただし、弱みの改善ばかりに気をとられていては、現状をキープするのがやっとかもしれません。対して、強みに集中すると前進することができます。
加えて、すでに持っている強みだけでなく、新しい強みを生み出すことも大切です。
ジョブス氏が自身の強みを生かしたiMacの成功から、さらに新しい機能とデザイン性を兼ね備えたiPod、そしてiPhoneを作り上げたのが、まさにその典型的な例でしょう。
では、ここで考えてみてください。あなたの会社の強みとは何でしょうか?
もしかしたら今すぐには答えが出ないかもしれません。きっと同じ質問をぶつけられて、すぐに答えられる企業は、それほど多くはないでしょう。
その答えは、常に市場(顧客)にあります。
経営戦略を決める目標も自社の強みも、全て顧客のニーズに基づいていなければいけません。
ニーズに対して自分の強みを売り込んでいくこと、これこそが成功する戦略だといえます。
そのためにも、企業経営は常に自分の目線ではなく、顧客の目線で考えていかなければいけないのです。
失敗する戦略=自社の弱みばかりが気になり、弱みの改善に終始する
成功する戦略=顧客のニーズに対し、自社の強みを売り込んでいく